名も無き島の新酒祭  Prosit! ……サモンナイト3SS


 かつて「召喚術実験場」として作られたこの島には、いまでも「残された人たち」がいる。
 そこへ最近「流された人たち」が加わり、いきなり賑やかさを増した。
 彼らは今までの住人が知らなかった、いろいろな「文化」を持ち込んだ。特に料理関係に。

 そして。

「美味いものが食べたい」という万民共通の欲が結実し、ついにワインが作られて。

 ある秋の一日、新酒祭りが厳かに挙行された。

「あー。本日は誠に結構な日和となり…」
 ゲンじいさんことゲンジ先生が、皆の前で挨拶をはじめたが……既に誰も聞いていない。

「ほなちゃっちゃと開けましょか。みなさんジョッキの準備はできてまっか?」
 タルのような体型の男が、樽の前で大声を上げた。
 三つ編みの少女が、オウキーニに木づちを手渡した。

「いきまっせー。せえの!!」

 ぽん!

 景気のいい音と共に、樽のフタが抜ける。ゲンジ先生曰く「鏡割り」という、おめでたい技法らしい。
 何とも言えない芳香があふれ出す。
 漂流以来意に添わない禁酒を強いられてきたジャキーニ一家からは、早くもうれし泣きが聞こえてくる有様だ。

「っはー。うめえ! お前、天才だよオウキーニ!」
「そない褒めてもろたら恐縮ですわ、カイル船長」

 酒が好きなのはカイル一家も同様だ。
 褒め言葉は堂々と、悪口ははさらに大声で、喧嘩を売るときは全力で。
 …がモットーな彼らしく、感情表現があけっぴろげだ。

「さあさあさあ! みんなノリが悪いわよ! ほらヤッファも飲んで飲んで!」
 と、場を盛り上げているスカーレルだが、こういうタイプは案外自分は飲んでいない。
 テンション急上昇中のソノラを目配せで牽制したり、逆にテンション急低下するヤードの酒をこっそりお茶にすり替えたりと忙しい。
 容姿と言動ばかり目立つ人だが、実は気配りの人だったりする。

 そんな様子を眺めながら杯を傾けるミスミ様は、飲み始めから全く顔色が変わらない。
「キュウマ、まだまだ堅いぞ。酒がたりないのではないかえ?」
 と問いかけられた鬼族の護人は、耳まで真っ赤になっているが背筋はピンと伸ばしたままだ。
「あー。ニンニンさん、目開けたまま寝ているです」
 マルルゥがつつくと、キュウマはそのままの体勢でばたんと倒れてしまった。

「修業が足りぬな」

 普段なら苦悩で顔色が変わりそうなセリフだが、キュウマに変化は見られない。
 どうやら本当に寝ているらしい。ミスミ様はほんのり微笑んだ。

「うおー」
 突然暴れはじめるヤッファ。
 さっきまで海賊達と格闘について議論していたのだが、ついに実技に突入してしまったらしい。
 ヤッファvs船長の一騎打ち。繰り出される拳、飛び散る汗。まるで怪獣大決戦である。

「……うん。たまにはこーゆーのもいいんじゃない?」
 んふふ〜♪ などという珍しい笑いをうかべるマスターを、クノンが一見無表情に見守っている。
「アルディラ様。脳波と心拍数に乱れが…」
「らいじょおぶ♪」
「安静が必要と診断いたします」

 匂いだけで酔ったアルディラを、クノンがおんぶしてこっそり連れて帰った。

「…ひっく………(しゅこー)」
「?!? ファルゼン様、まさかお飲みになったのですか?」
 あわてるフレイズの目の前には、オーラが桃色になった白い鎧が立っている。

「………暑ぅい…」
「!! ファリ…じゃなくてファルゼン様! こんな所で脱ぐのはおやめください!」
「あとはおねがいします」

 決死の叫びもむなしく、幽体の少女は蛍のように明滅しながら、皆の頭上を飛び交いはじめた。
 思わず顔色を失うフレイズだったが、頭の上なんかに注意を払う人間など、誰もいなかった。

「私は常に努力を怠らなかったつもりだ。
 たとえ独善的と言われても、納得できなければ上司との戦いも辞さなかった。
 もちろん部下の忠告にも耳を傾けてきた。
 …聞いているかギャレオ」
「もちろんですアズリア隊長」

 片隅ではアズリアがギャレオ相手に説教の真っ最中だった。
 実は完全に酔っぱらいモードに突入しているのだが、ギャレオはおそらく気にしていないだろう。
 からむ方もからまれる方もきちんと正座しているのが、傍目になんとも異様な光景だ。

 

「あら先生ェ♪ こんなところでどうしたのぉ?」
 喧噪から少しだけ離れた木陰で、ジョッキを抱くようにして座り込んでいた彼の所に来たのは…
 服も赤いが顔はもっと赤い、究極の酒飲み姐さん。我らがメイメイさんだった。

「うん。ちょっと酒気にあたったかな」
「にゃはは♪ みんなまだまだ青いわねぇ。酒は飲んでも飲まれるな、っていうでしょ?」

 この人にだけは言われたくないだろうと思ったが。
 レックスはまだ口を付けてなかったジョッキをメイメイに渡した。
 受け取った葡萄酒を一気に空にしたメイメイは、気持ちよさそうに息を吐いた。

「くはぁ。いーじゃない、これ。楽しみが増えたわねえ♪」
 上機嫌そうなメイメイは満ち足りたネコを連想させる。なんだか可愛いなぁ…などとぼんやり思う。

 しかし次の瞬間、彼は自分の能天気さを後悔した。

「みんなぁ! 先生がまだ素面よぉ!」

(うわぁぁぁぁぁぁぁ)

 逃げる暇もなく、あっというまに包囲されるレックス。
 銃口ならぬ瓶口を突きつけられ、思わず両手をあげてしまう。

(さっきまで酔っぱらってたんじゃないのか皆!)
 いや酔っている。間違いなく酔っている。
 酔っているからこその行動力である。

「いや俺は…。明日も授業があるし…」
 言い訳めいたことを口にしてみるが、酔っ払いに聞く耳なし。

 

 翌日、二日酔いの頭痛に悩まされつつそれでも授業を行ったが…。
 彼の生徒の視線が冷たかったのは言うまでもない。

 

 おわり


 い・い・わ・け

 サモナイ小説初書きでした。初稿からかなり書き直したのですが……あわわ。

 なにしろ、これを書いたときはまだエンディングさえ見ていなかった(^^;)

 雑だったり設定におかしなところがあったら……見なかったことにしてください(滅)

 てのは、だめかな(^^;)

 



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