名も無き島のクリスマス Merry, Merry Christmas!!……サモンナイト3SS




 年間通して、気候温暖。
 常春などというありえない表現がまかり通ってしまう小さな島。
 時間でさえも他所とは違う流れ方をするらしいこの島では、暦というものは意味を成さない。

 そんな「名もなき島」で唐突に、クリスマスをやろうという話が持ち上がった。

 「いつもいきなりだよな、あの人たち」
 鉛筆を振りながら、ナップが言った。
 あの人たち…つまり、彼らが宿を借りている海賊一家のことだ。
 四人は今、先生が自習用に確保した小部屋にこもって勉強中…。
 ということになっている。
 「自分たちが楽しみたいだけでしょ」
 ベルフラウがそっけなく答えた。
 「そうだね。『内緒』とか言いながら、目が笑ってたし」
 ウィルが本から目を離さずに続ける。
 「でも……楽しみです」
 少し間をおいて、アリーゼが小さな声で呟いた。
 四つの視線がぶつかり、からみあいそして。
 「…だよな」「ねえ」「まあね」「はい」
 ぷっ、と誰かが吹き出したのを合図に、いっせいに笑い出した。
 「ご馳走だ!!」
 「パーティは、久しぶりだわ」
 「夜更かしもさせてもらえるかな」
 「プレゼントも…もらえるんでしょうか」
 小さく熱狂的な声が、暫定自習室に満ちた。

 要するに。
 クリスマスと聞いて嬉しくならない子供なんて、いないのであった。

 「サンタさんには、誰がなってくれるのでしょう」
 心配そうな口調でアリーゼが言った。
 聞かれた三人も、それぞれ深刻な表情で考え込む。
 「…ゲンジ先生じゃないの? おじいちゃんって他にいないし」
 子供好きな彼なら、喜んで引き受けそうだが。
 四人がそれぞれ想像する。
 荷物を背負って、夜道をよたよた歩くゲンジ。
 考えるだに危なっかしい。
 「基本どおり、屋根に登るとか言い出したら…」
 「無理! ってか不可能!」
 「先生、死んじゃいます」
 「…縁起でもないこと言わないでよ、アリーゼ」

   ゲンジサンタ案、没。


 「もっと丈夫な人がいいんじゃねえ?」
 「ヤッファさんはどうでしょう。」
 ナップとアリーゼの会話を、四人で吟味する。
 確かに彼なら、夜道坂道ものともしないだろうが…。
 「だめね」
 にべもなくベルが言い切った。
 「あの人はたぶん、マルルゥに『欲しいやつは取りに来い』って手紙を届けさせて…」
 ウィルが言うと、ナップがにやにや笑顔で答えた。
 「自分は家で寝てる!!」
 四人でおなかを抱えて笑ってから…深刻な表情で顔を見合わせ。
 「ぜんぜん駄目じゃん」

   ヤッファサンタ案、没。


 「ファルゼンさんはいいんじゃないかな。夜属性の人だし」
 ウィルが提案した。なるほど、と手を打つ三人。
 天使というオプション付のあの人なら、ふさわしいかもしれない。
 と納得しようとしたとき、いきなりナップが笑い出した。
 「あ! 俺もっといいこと考えた!」
 言いながらけらけら笑っている。騒々しい。
 「あの人に一番似合うのはあれだ、ゆきだるま!」
 三人の脳裏に、バケツをかぶって屋外に佇む白い姿が浮かんだ。
 片手に箒を持ち、なぜか正座である。
 「似合う…」
 ぽそっとアリーゼが呟いたのを合図に、四人は笑い転げた。
 すでに伝説の「箸が転んでも可笑しい」状態になっている。

 と、まあそんなわけで。なし崩しに…
 
   ファルゼンサンタ案、没。


 「キュウマさんはどうかしら」
 ベルが言った。三人が目を見張り、少女は自慢げに笑った。
 「深夜こっそり忍び込むのは、あの人が適任だろうね」
 なにやら物騒な表現をするウィル。
 「真面目な方ですから、必ず来てくれると思います」
 アリーゼも保証した。

 物音ひとつ立てず、家人に気づかれず確実に任務遂行。
 任務のためなら情も押し殺し。
 心に刃を抱く職業。それが忍者。

 「…なーんかさあ、違うくねぇ?」
 プレゼントを届ければいいってものじゃない。
 忍者という職業は、サンタクロースとはどこか相容れないところがある。
 そう思い知った子供たちだった。

   キュウマサンタ案、没。


 「女の人でもいいんじゃない? ミスミ様とか」
 ウィルが呟いた。
 「え〜」と不満そうに答えたのはナップだった。
 しかし、女の子達はそろって頷いた。
 「そうですね。いつもみたいに微笑んで『よい子に贈り物じゃぞえ』って…」
 アリーゼが口調を真似て言うと、ナップが急に「ぎゃ」っと叫んだ。
 「駄目だ俺、この前スバルと喧嘩した!」
 「あら、お気の毒」
 冷たく言ったベルに、ナップが反撃する。
 「お前もな、パナシェを『特訓だ』って追いかけ回して泣かしただろ!」
 「あ、あれは…」
 「ほ〜れ。俺がプレゼント無しなら、お前だって無しだっ!!」
 口論する二人。
 その横で、優等生のウィルやおとなしいアリーゼまで、なぜか目が泳いでいる。
 「よい子か?」と問われると後ろめたくなるナニカが、二人にもあるらしい。
 こういうとき。
 都合の悪いことを棚上げにしてばっくれることができない。
 そういうところは十分「よい子」の資格があるのだが。
 もちろん彼らが自覚しているはずもなく。

 しばらくして、四人の意見はまとまった。

   ミスミサンタ案、没。


 「あぁ! もう先生でいいじゃん!」
 ナップが叫ぶと、三人がそれぞれ照れくさそうに微笑んだ。
 そう。先生は彼らの保護者的な立場にいる。
 いうなれば親同様。
 サンタの代理を務めて、困ることは何もない。
 ないのだが。
 若すぎる先生を、そういう立場に置き換えるのが気の毒というのが、ひとつ。
 なにより「本命を素直に口にできない」。
 そんな、青春スタートラインぶっちぎりなお年頃の四人であった。

 「まあ、そうだね」
 「私も先生が…いいです」
 「二人ともずるい。そうならそうと、先に言えばよかったじゃない」
 不満そうなベルだが、彼女も自分からは言えなかったのである。
 「じゃ、先生がサンタってことで…いいな?!」
 「賛成〜」
 満場一致で結構なことだが、彼らの願いはかなうのだろうか。

   アティサンタ案、採用。


 そして。
 クリスマスパーティはとても楽しかった。
 子供たちはわくわくしながらベッドに入り、翌朝を待った。

 次の日、彼らの元に届いたプレゼント。それは。

 アティ先生渾身の「ふゆやすみお勉強ワーク」だった。

 「クリスマスということは冬休みですから。教師としてこれははずせませんね」
 明るく告げる声が聞こえるような、リキの入った総手書き。
 弱点補強を目指した、個人別能力に合わせた徹底指導。
 ところどころに「似顔絵付がんばれメッセージ」まで入っている。
 まさに教師ならではの贈り物と言えよう。

 「………先生らしい。らしすぎる」
 四人の生徒たちは、顔を見合わせて小さく深いため息をつくしかなかった。


   おわり

   い・い・わ・け

 パラレルです。
 生徒、全員そろっているし。でも、一度は書いてみたかったんですよ。
 なんといいますか、バランスが良いんですよね。
 会話するとさぞかし楽しいだろうと。

 そんなわけで。
 公式サイトには先月アップさせてもらったのですが…
 自サイトの更新は年明けになってしまいました。