新しい故郷  Home sweet home……サモンナイト3SS


 忘れられた島。
 ここでの祝い事は「鍋料理」と決まっている。
 今夜も住民が集まってひとつ鍋を囲んで宴会の真っ最中だ。

 その「祝い」の中心には、若い男性。

「レックス先生、おかえりなさい」
 その言葉にちょっと照れた笑顔を浮かべながら、レックスは嬉しそうに料理を口に運ぶ。
 彼がいなかった間の出来事や、軍学校を受験した生徒の話。

 お互い、聞きたいこと語りたいことはたくさんあって、宴は夜まで続いた。

「ときに先生」
 ミスミが口火を切ったのは、そろそろ子供達が眠る時間のことだった。
「そなた、これからどうするつもりかえ?」
「…どう、とは?」
 レックスが問い返すと、ミスミは微笑みを浮かべてこう言った。

「この島で暮らすとなれば、早晩家が必要になるじゃろう? なにか考えておるのか…と思うてな」 ちなみに、今日の所は鬼の館に宿を借りている。

「そんな。先生は戻ったばかりなのに…」
 ファリエルが取りなそうとするが、ミスミは容赦なく問いかける。

「もちろん、いつまでも我が館で暮らしてくれてかまわないのじゃぞえ。
 スバルの『かてーきょうし』をしてくれれば猶嬉しい」

「あら。風雷の郷よりも、ラトリクスの方が暮らしやすいわよ」
 そう言ったのはアルディラだった。

「冷暖房娯楽設備完備。清潔で合理的な毎日をお約束するわ」
 アルディラにウインクされ、レックスは困ったように頭を掻く。

「待て待て。ユクレスだって捨てたもんじゃねえぞ」
 女性二人に待ったをかけたのはヤッファだった。

「そうですよぉ。
 先生さんが来てくれるなら、ナウバの樹に先生専用のハンモックつるしてあげるです」
「………う”」

 レックスの笑顔が、微妙に変化した。今の提案はけっこうツボをついたらしい。

「それならうちはクノンをつけるわ。三食メイドつき。これでどう?」
 アルディラの発言に応じるように、しとやかに三つ指ついて頭を下げるクノン。

「そ…そんな! だめですよ!」
 なにがダメなんだか不明だが、ファリエルはすでに半泣き状態である。

 なにしろ、彼女の暮らす霊界集落といえば…。

 

 日当たり不良。なま暖かい風通し抜群。

 日中でも人の気配がなく、夜になったら遠雷とタケシーの遠吠えがひびく…。

 

 …という、ホラーマニアでもなければ、謹んで遠慮したい環境なのだ。

「やはりミスミ様の館でしょう。私も下宿してますし、近くにゲンジ先生もいらっしゃる。
 毎日学問と、教師のあるべき姿について語り合いましょう」
 などと、いいとも悪いともつかない条件をヤードが持ちだす。
 負けずにマルルゥが「コックさんも結婚して、ユクレスにおうち建てたです!」と力説。

 レックスは引きつり笑顔のまま、頷くのみである。

 島の一同は先生そっちのけで盛り上がり、このままではくじ引きでも…と言い出すんじゃないかという状態になった。

 その、とき。

「いい加減にしてください! レックス先生はおもちゃじゃありません!」
 叫んだのはファリエルだった。

「そりゃ、うちの集落にはなにもないですけど…でも…。
 わたし…先生が帰ってくるのをずっと待っていたから…」
 口ごもってしまったファリエルの頭に、暖かい何かが被さった。

「そうだね。霊界集落にはファリエルがいる」
 涙ぐんだ少女の頭を軽くなでる、レックスの手。
「みんなありがとう。俺、ファリエルの所に行きたいと思う」

 レックスが宣言すると、それに反対する者は…誰もいなかった。

 

 

「意外とあっさりカタがついたのう」
 つまらなそうに呟いたのはミスミである。
「だから言ったじゃないの。あの人達、アレで結構意志が強いから大丈夫だって」
 アルディラが微笑む。

 そう。
 二人が思いをよせ合っていることに、他の護人はとっくに気付いていた。
 なので、レックスが帰ったのを機会に二人の仲を後押ししようともくろんだのであった。
 なにしろ、あの郷には『男の小姑』がいる。
 強い意志を持たないと大変だろうと気を回したミスミだったのだが…。

 どうやらそれも杞憂に終わりそうで。

 「先生争奪戦」に破れたことに、本気でがっくり来ているマルルゥやクノンやスバルを連れて。
 大人達はそれぞれの家に帰っていった。

 

 こうして。忘れられた島に、新しい住人がくわわったのであった。

 おわり


 い・い・わ・け

 「男の小姑」が誰かはいうまでもなく(爆)

 サモンナイト公式HP掲示板に投稿した第一弾です。

 なんかもう、書きたいように書いています。

 両作の主役がレックスなのは、ファーストプレイが彼だったからです。

 しかしエンドはファリエルではなかったという(^^;) 実は未だ見ていない。

 噂は色々聞いているので、最後の楽しみにとってあるんです(笑)

 

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