願い事をどうぞ! Javohl Majestat!!……サモンナイト3SS


 マルルゥは困っていた。


 この島に辿り着いたお客さんを歓迎したいのだけど、何を準備すればいいのか思いつかない。

 途方に暮れ、とにかくナウバの実でも持っていこうかと思っていたとき……それを見つけた。

「こんなところにお鍋さんがいるですよ」
 何処から転がってきたのか、草むらで鈍く光る大きな鍋が目に入った。
 黄色に輝くボディ。しっかりした持ち手のついた両手なべだった。

「これ、先生さん達へのおみやげにするです。みんなでごはん食べるです」
 それはとてもいい考えに思えた。
 マルルゥが持ち手を引っ張ると、鍋は苦もなく持ち上がる。

「あやや。とーっても軽いです。これならマルルゥひとりで運べるですよ」
 上機嫌に鼻歌を口ずさみながら、海賊達の船に向かった。

 

 マルルゥはもちろん海賊一家に歓迎された。
 船に常備されていた生活用品がかなり海に流された。マルルゥの手土産はとてもありがたい。

 だが、何よりその「気遣い」が嬉しかった。

 さっそく皆で手分けして、海産物を集めて夕食を作ることになった。
 魚やエビ、数種類の貝類をとっておきのトマト缶詰めで煮込んだそれは……。
 帝国の高級料理店で「ブイヤベース」と呼ばれている料理に酷似していた。
 調理する人の腕のせいか、どちらかというと「海鮮鍋トマト風味」になったが。

 見かけがどうだろうと、かぐわしい匂いには変わりない。
 食卓を調える一同が張りきるには充分だ。

「マルルゥもお手伝いするですよ」
 お玉を肩に担いで、マルルゥが鍋に近づいた。

「あららぁ」
 作業中の「あ!」とか「あれ?」とかいう呟きは、往々にして始末にわるい。
 一同はすかさず声の方を振り向いた。

「変な人がいるですよ」
 一斉に振り向いたので、皆が同時におなじ「ひと」を目撃する羽目になった。

「願い事を、かなえ〜る〜」

 声は鍋の中から聞こえた。

「願い事は三つまでであ〜る〜」

 赤い煮汁の中から、ひげ面のハゲ親父が顔を出していた。

「…………………………マルルゥ?」
「マルルゥ知らない人です! 島の人じゃないですよ!」
 ぶんぶんと首を振る様は、嘘には見えない。

「あなたいったい、誰よ?」
 包丁を片手にスカーレルが問う。鍋の背後に回るタイミングを慎重に計りながら。

「私は魔神であ〜る〜。願い事をかなえるのであ〜る〜」

 

 うさん臭い。

 

 レックス、ヤード、スカーレルの「慎重派」はまずそう思った。
 こんなろくでもない自称魔神には、さっさと消えてもらうに限る。
 その時思いついた「排除方法」は三者三様だったが、それはさておき。

 人生において。善後策を考えるコンマ数秒の間が、致命的な出遅れになることは……。
 さほど多くないはずである、が。
 世の中には思考より行動が先という人種が存在する。

「はいはいっ!! あたしにじゅう…………」

 ぱた。もがもがもが。

 何処につっこもうかと、言葉を呑み込んでいた人たちの聴覚をけ飛ばす、ソノラの発言。
 最後まで言わせず、船長の大きな手が強制終了させた。

 しかし。

「汝の願い、かなえよ〜う〜」

 ぱぽん。

 ソノラもせっかちだが、魔神もかなり気が短い。
 彼女の言葉が終わるより早く、妙にコミカルな音とともに、ソノラは変身した。
 ふっくらしたほっぺはシャープにな小顔になり、くせっ毛は波打つロングウエーブに代わり。

 なにより、「お子様体型」だったボディがめりはりある大人のものになった。
 いきなり抱き心地が変わったので、カイルは慌てて手を放した。

「なあに? ソノラったら二十代になっちゃったの?」
 スカーレルが呆れた口調で問う。

「サービスして29さ〜い〜」
 どんなサービスだ。

 自分の身体を慌ててチェックしていたソノラは、その言葉を聞いて口をとがらせた。
「やめてよね! あたし、兄貴より年上なんて絶っ対! イヤだから!!」

「二つ目の願い、かなえ〜る〜」
 早っ!

 まるでこの展開を予想していたかのように、ソノラはいつもの姿に戻った。
「あーあ。目の保養だったのに。ねえセンセ?」
 スカーレルに言われ、レックスは慌ててゆるんでいた表情を引き締めた。しかし。

 視界の隅で、ウィルがモロに「けーべつ」の視線を向けるのが見えた。時既に遅し。

「願い事はあとひ〜と〜つ〜」

 

 「帰れ」

 

 どこまでもマイペースな自称魔神に向かって、カイルが吠えた。ヤードも横で頷いている。
「みっつかなえたら、帰れ〜る〜」
 叶えないと帰れないらしい。

「これは、なるべく支障の無い範囲で何かお願いするのが無難でしょうね」
 ヤードが囁いた。何が良いかな?と皆がそれぞれ考えはじめたとき。

「じゃあ、みんなでごはん食べるですよ。るーるーさんもいっしょに
 お玉を担いだまま、マルルゥが元気に発言した。

 …………「るーるーさん」ってのは、もしかしてこのハゲ親父のことですか?
 あまりのネーミングセンスに絶句する一同。

「みんなで食べたほうが楽しいしおいしいですよ」
「承知し〜た〜」

 その言葉とともに、自称魔神が鍋から飛び出してきた。
 顔にも身体にも、煮汁や具はくっついていない。
 鍋からは出てきただけで、用は別次元からの召喚なのだろうと思うが。

 そうと判っていても、この海鮮鍋を食べるのはかなりの勇気を必要とした。
 何となく静かに場夕食は終り、魔神は満足げに言った。

「汝の願い、かなえた〜り〜」

 

 帰れ早く帰ってくれ。

 

 心の中で呟く男衆をよそに、マルルゥとソノラは機嫌よく手を振って、魔神を見送ってそして……。
 あとには、煮汁がこびりついた鍋だけが残った。

 

 

 

「どーして消えないのこの鍋は?! 
 サモンマテリアルで召喚したなら、役目が終わったら消えるはずでしょ?」

 イライラした口調でスカーレルが呟く。
「えーっと。俺もよくわからない」

 困り果てたレックスは、ヤードに救いを求める。
 しかし経験を積んだ召喚師のはずの彼も、首を傾げるだけだった。

 サモンマテリアル。異世界から様々な無生物を引き寄せる基本的な召喚術だ。
 無生物であるせいか、この世界と融和することはほとんど無い。
 普通は一時間と持たずに消えてしまうものなのだ。

「るーるーさんのおうちだから、消えないのですよ」
 マルルゥが言った。ヤードは心の中でため息をつく。

(その可能性だけは考えたくなかったんですけどね)
 つまり。どういう仕組みか不明だけど……魔神は今も鍋の中に、居る。

 古の時代に、召喚師が気まぐれに呼びだしたのか、作ったのか。
(あんな人でも、ここに居るかもしれないとなると……)

 鍋としては使いたくないし、かといって壊してしまうのもためらわれる。
(私が預かるしかないんでしょうね)

 ため息一つ。
 うっかり子供たちが持ち出すとか、ジャキーニ一家の手に渡ったりした場面を想像して、ヤードは今夜何度めかのため息をついた。

 

 そういうわけで。
「鍋の魔神伝説」は、海賊一家+マルルゥの秘密ということになったのであった。

 

 鍋の魔神は今日も、誰かに呼ばれるのを待っているのかも……しれない。

 

 おわり


 い・い・わ・け

 なぜはげなのか……はさておき。

 いや、前回ウケたからじゃないと思います。思いたい(^^;)

 のんびりした日常の話、好きなんです。

 原作が充分エキサイティングで、夜会話でらぶらぶですから(^-^)b

 私の出番なんてありませんとも! 

 ソノラの言いかけたセリフはもちろん「あたしに銃を撃たせろ!」であります。

 ここから話を考えて、どうして魔神が登場するに到ったかは……例によって謎です。

 お話の出来る瞬間って、時々私の知覚を越えます(^^;) そんな気がします。

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