マルルゥは困っていた。 この島に辿り着いたお客さんを歓迎したいのだけど、何を準備すればいいのか思いつかない。 途方に暮れ、とにかくナウバの実でも持っていこうかと思っていたとき……それを見つけた。 「こんなところにお鍋さんがいるですよ」 「これ、先生さん達へのおみやげにするです。みんなでごはん食べるです」 「あやや。とーっても軽いです。これならマルルゥひとりで運べるですよ」
マルルゥはもちろん海賊一家に歓迎された。 だが、何よりその「気遣い」が嬉しかった。 さっそく皆で手分けして、海産物を集めて夕食を作ることになった。 見かけがどうだろうと、かぐわしい匂いには変わりない。 「マルルゥもお手伝いするですよ」 「あららぁ」 「変な人がいるですよ」 「願い事を、かなえ〜る〜」 声は鍋の中から聞こえた。 「願い事は三つまでであ〜る〜」 赤い煮汁の中から、ひげ面のハゲ親父が顔を出していた。 「…………………………マルルゥ?」 「あなたいったい、誰よ?」 「私は魔神であ〜る〜。願い事をかなえるのであ〜る〜」
うさん臭い。
レックス、ヤード、スカーレルの「慎重派」はまずそう思った。 人生において。善後策を考えるコンマ数秒の間が、致命的な出遅れになることは……。 「はいはいっ!! あたしにじゅう…………」 しかし。 「汝の願い、かなえよ〜う〜」 ぱぽん。 ソノラもせっかちだが、魔神もかなり気が短い。 なにより、「お子様体型」だったボディがめりはりある大人のものになった。 「なあに? ソノラったら二十代になっちゃったの?」 「サービスして29さ〜い〜」 自分の身体を慌ててチェックしていたソノラは、その言葉を聞いて口をとがらせた。 「二つ目の願い、かなえ〜る〜」 まるでこの展開を予想していたかのように、ソノラはいつもの姿に戻った。 視界の隅で、ウィルがモロに「けーべつ」の視線を向けるのが見えた。時既に遅し。 「願い事はあとひ〜と〜つ〜」
「帰れ」
どこまでもマイペースな自称魔神に向かって、カイルが吠えた。ヤードも横で頷いている。 「これは、なるべく支障の無い範囲で何かお願いするのが無難でしょうね」 「じゃあ、みんなでごはん食べるですよ。るーるーさんもいっしょに」 …………「るーるーさん」ってのは、もしかしてこのハゲ親父のことですか? 「みんなで食べたほうが楽しいしおいしいですよ」 その言葉とともに、自称魔神が鍋から飛び出してきた。 そうと判っていても、この海鮮鍋を食べるのはかなりの勇気を必要とした。 「汝の願い、かなえた〜り〜」
帰れ早く帰ってくれ。
心の中で呟く男衆をよそに、マルルゥとソノラは機嫌よく手を振って、魔神を見送ってそして……。
「どーして消えないのこの鍋は?! イライラした口調でスカーレルが呟く。 困り果てたレックスは、ヤードに救いを求める。 サモンマテリアル。異世界から様々な無生物を引き寄せる基本的な召喚術だ。 「るーるーさんのおうちだから、消えないのですよ」 (その可能性だけは考えたくなかったんですけどね) 古の時代に、召喚師が気まぐれに呼びだしたのか、作ったのか。 鍋としては使いたくないし、かといって壊してしまうのもためらわれる。 ため息一つ。
そういうわけで。
鍋の魔神は今日も、誰かに呼ばれるのを待っているのかも……しれない。
おわり
い・い・わ・け なぜはげなのか……はさておき。 いや、前回ウケたからじゃないと思います。思いたい(^^;) のんびりした日常の話、好きなんです。 原作が充分エキサイティングで、夜会話でらぶらぶですから(^-^)b 私の出番なんてありませんとも! ソノラの言いかけたセリフはもちろん「あたしに銃を撃たせろ!」であります。 ここから話を考えて、どうして魔神が登場するに到ったかは……例によって謎です。 お話の出来る瞬間って、時々私の知覚を越えます(^^;) そんな気がします。 |